「…響名。訊きたいことがあるの」
「何よツキ。この間の模試のことなら――」
「聞いてないわよ模試のことなんかッ! 思い出させるな屈辱だ!! どうしてあんたに一度も化学で勝てないのよ!!」
「物理はぶっちぎりで勝ってるじゃない…」
「うるさいムカつく。…ああそうじゃなくて、模試の話じゃなくてね。訊いておきたいことがあって」
「何?」
「メイの誕生日っていつなの?」
「それは要するにメイとは双子であるあたしの誕生日でもある訳だけど、言ってなかった? 8月7日よ」
「…成程。夏休みなのね」
「どうしたの、またメイとやり合ったの? あんた達ホントに仲悪いよね」
「私は好きなのに。どうして逃げるのかしら」
「いや、あんたが好き好き付き合えって言って追いかけるから逃げてるんだと思うけど。難儀な奴だな、わが弟ながら…」
「あら、付き合えなんて言ってないわよ。私を彼女にしてくれる、ってのは言質をとったから今更迫らなくてもいいもの」
「言質をとってる時点でなんか違う気がするわよそれは」
「で、誕生日ね。デートのひとつもしたいと主張してるのに逃げるんだものあいつ」
「……あー、まぁねぇ、あいつ生粋の宝舞育ちで、幼稚舎からこの学校でしょ。周りに能力者がいるのに慣れてたから、ツキみたいな非保有者<ノーマル>に好かれるのは慣れてないのよ。勘弁してあげて」
「小さい時に力の加減ができなくて小動物殺したのがトラウマになってるって言ってた、アレ? …腹立つな。私は小動物と同じカテゴリーか」
「似たようなもんなんでしょ、メイにとっては。女の子はか弱くて小動物みたいなもんだと思ってんのよ。馬鹿でしょう?」
「うん。すごい馬鹿。そういうとこが好き。」
「…無表情にきっぱり言い切れるあんたのそういうとこは羨ましいわ、ツキ。7日にデートできるようにお膳立てしておこうか?」
「お、いいの?」
「いいわよ。あいつも少しは同年代の非保有者に慣れてくれなきゃ、この先ずっとこの学園で暮らす訳にもいかないんだしさ。リハビリに丁度いいわ。あんたなら、多少のことで逃げたりはしないだろうし」
「いや逃げるわよ? 私基本的には能力者怖いし。逃げるよ?」
「適度に怖がって逃げてくれるくらいが丁度いい、っつってんの。ほら、リクエストある? 遊園地でも水族館でもショッピングでも映画でもセッティングしてやるわよ」
「ああ、それなら科学博物館――」
「却下。宇宙ヲタを全開にしてどーする。メイに引かれるわよ」
「まぁそれもそうね。無難なところを適当に考えておくわ。…そういえば響名の方はどうなの?」
「あたし?」
「センセとデートとかすんの?」
「……そういうことしそうな人に見える?」
「見えない。だから意外性とかそういうものがあったら面白いのに、と思って質問してみた。…何だ、見たままなのか、つまらん」
「大体、師匠(センセ)はあたしのことは実験の対象くらいに思ってそうだしなー。一度くらい問い詰めてみたいけど、いっつもはぐらかされるし。ツキー、年上なんて好きになるもんじゃないわよ、ろくでもないわよー」
「メイは同じ年だから問題ないわよ。そのアドバイスは隣で爆睡してるそこの馬鹿に教えてあげれば?」
「……んぁ?」
「あら起きたの竜花、おはよう」
「おはよう竜花。もう昼休みよ」
「え。……えええっ、嘘ー!! 何でもっと早く起こしてくんないのー!? やだ、残り時間30分しかないじゃない!!」
「いいから涎拭きなさい」
「うああああたしの至高のお弁当タイムがッ…」
「…………竜花はホントに子供っぽいわよね」
「…………竜花はむしろ年上の男性がお似合いかもね、当人がこれだし」
「え、なに、なに? お兄ちゃんの話?」
「いや、年上の男にロクなのはいないって話」
「ええええ、嘘だぁ。お兄ちゃんは素敵だもん」
「ツンデレだけどね」
「噂に聞いてたけど実際に会ってビックリしたわ。あんなテンプレ通りのツンデレが実在するものなのね。世界は広いわ」
「そうでしょ? お兄ちゃんかっこいいでしょ?」
「かっこいいとは一言も言ってないわよ」
「むしろ『うわ、これはないわ…』と思ったわ」
「む、酷いなー。お兄ちゃんはツンデレだけどそこがいいんだよ? ちなみにあたしに対しては100%ツンしかないけどまたそこがいい」
「デレが無いってそれ単に本格的に嫌われてるんじゃ」
「しーっ、ツキ、それは言わないお約束よ! 大丈夫、竜花の気付かない所でものすごく微妙なデレを披露することがあるわ!」
「それつくづく意味が無いわよね?」
「ああ、テンプレ通りって言ったらさ」
「…何? 何で私を見てるの、竜花」
「ほら、この間、ツキがウチのマンションに来て、戒利お兄ちゃんとちょっとお話してたでしょ?」
「ええ。大した話じゃないけど、メイを探してたものだから、行き先を知らないかと思って尋ねてたの」
「その後で、『お前の友達か?』っていうから、同級生でヒビと同じくらい仲良しなの、って言ったらさ、お兄ちゃん、何だか微妙な顔して――」
「……噂には聞いてたが、テンプレ通りの素直クールが実在するとはな…世界は広いな」
「って呟いてた」
「………意外と世界って狭いわよね。そっくりそのままさっきツキが言ったことと同じじゃない…」
「違うわよ。人の感性なんて、魔術師だろうが非保有者だろうが、結局似たり寄ったりだ、っていう――そういう至極単純な話よ、これは。…メイもその辺り、さっさと気付いてくれないかしらね」
「ああ、結局そこに話が戻るのね」
「あー、なに、またメイがツキに何か無神経なこと言った訳ー? あいつホント馬鹿だねぇ」
「そうそう、そういう話をしてたのよ――」
「……という訳で何だか俺はすぐそばで弁当喰ってるのに、聞こえよがしにこれでもかとこき下ろされたんだが。酷いと思わねーか、灯月、詩律ちゃん」
「まぁ相手が女子高生じゃな」
「そうだね、女子高生には勝てないから仕方がないよ。諦めるのが一番だよ、メイ」
「どういう理屈なんだよ!! あと俺は『名鳴(ナナリ)』だ、どいつもこいつも『メイ』って呼ぶな!!」