Princess Brave!
金属のぶつかり合う武骨な音が何度目だったか、もう数えている人なんて居なかったと思う。
必殺の一打を剣で逸らし、リトゥリー様が間合いを詰める。息も掛かるかと思うほどに肉薄したリトゥリー様が下から切り上げるように、剣を持ち上げ、末姫様は後方にしりもちをつくような格好でそれを何とかかわす。だけど態勢を整える暇が無い――リトゥリー様が猛烈な勢いで攻めに入った。
「フィーナ」
剣を振るうリトゥリー様が呟くように名を呼ぶ。僕の耳にはかろうじて聞こえたが、きっと、今二人の戦いを見ている野次馬の誰にも、その声は届かなかっただろう。
「…武器に頼り過ぎるのがお前の悪い癖だ。その武器であらば特にな。様子見などせず、一気に攻め込むべきだった」
末姫様が下唇をかみしめる。分かっている、と答えたかったのだろう。
「一撃必殺。その一撃を如何にして叩き込むか。それを考えろ。その武器は、使い手に知略を要求するぞ」
末姫様が、一歩を下がって間合いを取った。一度呼吸をする間を置いて、やや右側――リトゥリー様から見れば利き手の反対側、左側へと飛び込む。低い姿勢から飛び込んで、ハンマーを振らずに足元を狙い、下段からの蹴り。
リトゥリー様が、一歩すざってかわしざまに、剣を末姫様の肩の上から切り込んだ。ギャラリーがどよめく。
「…ふ…ゥ…ッ!!」
かみ殺すような僅かな悲鳴さえ僕の鋭敏な耳には届いてしまう。思わず末姫様に近寄りたくなるのを僕はぐっとこらえ(どっちみち、ニィにしっかり抱きかかえられてて身動きとれなかった)行く末を見守った。末姫様はまだ諦めてない。左肩に剣を受けて、たぶんあれ骨くらい折れてると思うのに、痛みなんか知らないみたいな振りをして、
「!」
リトゥリー様が、剣を引こうとした一瞬。その一瞬の間に。
末姫様は自ら武器を捨てた。ウォーハンマーを放って、肉薄しているリトゥリー様の懐へ。そのまま、姉姫様の鳩尾に、末姫様の拳が吸い込まれていった。
――あのウォーハンマーを振り回すだけの膂力だ。リトゥリー様は鎧を身につけていらしたが、その衝撃たるや想像するに余りある。たまらずたたらを踏んだところへ、とどめと言わんばかりに末姫様が低い姿勢から伸びあがるように、顎を狙って、一撃、
…と思ったところで、末姫様は、拳を止めた。
空気が、止まる。
周囲のギャラリーさえ声もなく成り行きを見守った。
「…やれやれ。私の負けか」
やがて最初に沈黙を破ったのは、リトゥリー様。その場に剣を下ろし、膝をつく。
「決闘の敗者は勝者に従うまで。お前の賭けていたものは何だった、フィーナ・フィーディス」
「議会の決定から、逃走する自由です、お姉様…でも」
末姫様は恥ずかしそうに、ちらりとウィズを見た。ここまで、彼は、その気になればいくらでも魔法でインチキ出来ただろうに、末姫様の言葉を信じてくれたらしく、微動だにしていなかったのだ。
「…ごめんなさい、ウィズ、わたくし負けてしまいました」
「はぁ?」
何だそりゃぁ、と苛立たしげにウィズが問い返す。末姫様はもじもじと、
「…決闘の最中に武器を放り出すのは降参の証になります、お姉様、勝負はわたくしの負けです」
ウィズが頭を抱えた。そりゃそうだ、あれだけ自信たっぷりに「任せておいて」と言ったのにこのざまはない。いくらなんでも、無い。
でも姉姫様は突然、おかしそうに声を出して笑い出してしまわれた。
「お前は本当に妙なところで義理堅いな!…ふん、フィーナ、仮にも私は姉姫だ。自分より弱い妹姫にハンデも無しに戦ったとなれば、それこそ決闘の作法に悖るだろうが。その程度の違反には目をつぶってやるさ。」
そんな作法があったかどうかは知らないが。末姫様はぱちりと瞬いてから、
「…お姉様より弱いというのは聞き捨てなりませんが。…今回だけは、そのお言葉に甘えさせて頂きますわ、リトゥリーお姉様」
と、妙に偉そうに、照れくさそうに言ってウィズにウィンクした。
「結果オーライってとこね」
「…心臓に悪ィよ、お前は、全く」
苦笑しながらウィズは息を切らせる末姫様の頭を軽くたたいた。負傷した肩を見て顔をしかめる。どうやら相当、酷い状態だったらしい。
「応急処置で良けりゃあしておこうか?俺の魔法は治療には向かねぇから、痛み止めくらいしか出来ねぇけど」
「そんなこと出来るの?あなた器用なのねぇ。お願いするわ」
正直なところ、痛くて仕方がないの、と、汗を浮かべて末姫様が言い、その場にへたりこむ。リトゥリー様はご自分の背後に控えていた騎士たちに声をかけ、道を開けさせていく。やがて門は重たい音をたてて開き、末姫様は、その向こう、城を囲む湖と山々の光景にしばし声もなく、じっと見入った。
そこへ、とたとたと軽い足音。
「んもう何やってんのよあんた達ってば!こーんな大騒動になってるし、見てみなさいよあの野次馬の数!人の実家の庭で姫君同士が武器振り回すなんてきっとあの野次馬連中、領地に帰って派手に噂にしやがるに違いないんだから!」
…あれま。ラウトゥール様とそっくり同じ容姿で、日焼けした肌に砂漠の衣装がやたらと派手な五の姫様、クリスタ様と、それにあれは三の姫のメイ様だ。ギャラリーに交じってどこからか集まって来られたらしい。
ていうか…クリスタ様…居たんだ…。砂漠の国に嫁いでからこっち、顔を見るのもお久しぶりだ。
「ちょっとチビ今余計なこと考えなかったッ!?」
「…?クリスタ?」
「はっ。何かしら、一瞬、すごくつっこまないといけない気がしたのよ」
よくわからないことを言ってから、座り込んだ末姫様と、その肩に手を当ててるウィズを見比べ、何を思ったか、ウィズに向かって彼女は持っていた袋をずい、と突きつけた。そして彼が当惑しているのを全く意に介した様子もなく、口を開く。途端に、クリスタ様お得意の、相手に相槌を打つ余裕さえ与えない「お喋り」が始まった。
「洋服一式入れといたわよ、侍女が旅の間に着てたモンだから町でも目立たないわ、安心しなさい、でもこれから寒くなるし行き先によって服のことを考えるの忘れちゃ駄目よ。あと旅に必要でしょうし路銀を少しと金目のものも入れて置いたわ、換金の方法は分かるわね、慎重にやるのよ。それからあんたの親友がいつでも砂漠に遊びに来いって言ってたわ、一通り片がついたら遊びに来るように、ダーリンも楽しみにしてるんだから。あとこれ、裁縫道具と携帯用の薬箱。旅には必需品よ、全く、あんたのことだもの、後先なんてろくに考えずに飛び出したんでしょう?思慮深くて経験豊富な姉が城に里帰りしていたことに感謝しなさいよ。あんたは一応、議会の決定無視して城を抜け出す身の上なんだからね、護衛も侍女もつけられないのって実際すっごくキツイわよ、覚悟しなさいね、まぁいい経験でしょうから止めはしないけどさ。それとあんた」
「俺?」
びしりと指さされ、突然指名されて、完全に勢いに押されて――クリスタ様が並べ立てただけのものが入っているとは思えないくらい小さくて軽そうな――革の袋を受け取っていたウィズが、その悪目立ちする瞳をみはって一歩後ずさる。クリスタ様があんまり勢いよく喋る(双子のラウトゥール様とは全く正反対だ)もんだから、ウィズはちょっと尻込みしたみたいだ。
ちなみに後になって僕と末姫様は知ることになるが、どうやら彼が百十一年前に「賭けに負けた」姫君、フィータ様と、実際のところ性格が一番似てるのはこのクリスタ様らしい。多分、彼が完全に勢いに呑まれていたのはその点も大きく影響したのだろうに違いない。
「あんたそんだけ『金目』なんだから魔法の力も強いんでしょ。ウチの末の妹に、嫁に行けないような傷を負わせて御覧。王国全土と、私のダーリンの砂漠の民と、ラウの旦那の居る獣人族の集落まで含めて敵に回すと心得なさい。それとあとひとつ、妹に手ぇ出すんじゃないわよ。」
「何の心配だ!?いや待て、普通、俺の素性を詰問するとか!訊くことあんだろ、他に!!」
――仮にも王族の姫君が行動を共にしようって云うんだから、まぁウィズの言うことも一理あるっちゃああるんだけど、隣に居たメイ様があっさりとその疑問に答えた。
「だって君、『図書館の悪魔』でしょ。伝承の。王国の災いを防ぐために居るって言う」
「…ってメイ姉が言うからあたしは信用してるわよ」
「そもそも、フィーナに図書館へ行くように勧めたのは私だもの。君のことは城の魔族の間じゃ有名なの、知らなかったかしら?」
図書館には、たまに、金色の目の悪魔が、寝ぼけてふらりと現れる。そのことはどうも、城の魔法使いの皆さんの間じゃあ周知の事実だったそうで。
伝承の「図書館の悪魔」の正体についても、魔法使いさん達の間では、暗黙の了解みたいなものがあったらしい。
「フィーナの危機を王国の災いと判断してくれるかどうかは、賭けだったけどね、その様子ならうまくいったみたいだし。結果オーライ」
ぐっと親指を立ててそんなことを言うメイ様に、ウィズはがっくりと肩を落とした。
「…こいつら全員フィータの血を継いでるのを忘れてた俺が馬鹿だったよ、全く…」
フィータの奴め、と、呟いた彼は、でもほんの少し、楽しそうに見えた。口元が笑いを堪えるみたいに引き攣ってる。本当は口で言うほど呆れても、いないんだろう。
「ねー、それより早く痛み止めでも何でもしてちょうだいよ!痛いんだからね!」
「あ、悪い。でもそれ骨折れてるし、治るの時間掛かると思うぞ」
「あああ痛い痛い痛い」
それを聞いてなぜか顔をしかめたのはメイ様の方だった。クリスタ様も思い切り顔をしかめ、末姫様だけが脂汗浮かべつつも苦笑い。…相手がリトゥリー様なんだから、これくらいの怪我、きっと覚悟されてたんだろうな。
「あとは…フィーナ、旅の心得をひとつ教えておくわ。ここにいる姉姫とお母様と、それと勿論お父様も、みんなあなたの味方よ、それを忘れないで」
メイ様が告げたその言葉に、末姫様がふわりと笑った。本当に心から嬉しそうな、満面の笑顔。
「ありがと、ねえさまたち。みんな大好き!」
末姫様の言葉を受けて、クリスタ様が茶目っけたっぷりにウィンクし、片目を眼帯に包んだメイ様は優しく微笑んだ。その顔はどちらも、はっとするほど末姫様によく似ていた。何だか少し、ウィズは眩しそうに目を細めて、その光景を見守っている。
「――行ってらっしゃい、フィフィ。あんたの頭の上に、飛びっきり派手な幸運の女神様のご加護を!」
「行ってらっしゃい、私達みんなの妹。酒と煙草の好きな幸運の女神が、ご加護をくださいますように」
騎士達に伝達を終えたリトゥリー様も苦笑いしながら、その別れの挨拶に加わった。
「…あれだけ言ったのだから、勿論、必ず目的を果たして帰って来いよ、フィーナ。…お前に、牙と爪を持つ猛き戦神のご加護もついでにあるように、願っているよ」
それから姉姫様達は、まさか打ち合わせしてた訳もないと思うけど、同時にウィズをじっと見て、ほとんど同時に口を開いて、三人の女性に睨まれた格好ですっかり居心地の悪そうなウィズにてんでばらばらに言い放った。(お陰でウィズは数秒、言われたことを整理しないといけなかった)
「妹をよろしくな。大変なじゃじゃ馬だから、苦労するだろうとは思うが、今回の旅には護衛も侍従もつけてはやれんからな。」
「フィーナをよろしくお願いするわね、ちょっと無謀というか思慮の足りないところがある上にこの子、ホントにお人好しなの。」
「さっきも言ったけど、妹を頼んだわよ、この子、すーぐ武器振り回して飛び出していっちゃうんだもの、あんたも苦労すると思うわぁ」
ウィズが同時に耳に入ってきた情報を必死で整理している間に、ようやく、そりゃあもうようやく、僕はこの場に入り込むことができた。というか、まぁ、僕を抱えているニィとティグ様とが、その場に現れた訳だ。
末姫様も姉姫様達も、咄嗟に目をかわしあった。一体何用かと疑念を抱いているのがひとつ、末姫様の身に降りかかった不幸とこれからの動向をこの人物に明かして良いものか迷ったのがひとつ。恐らく長いお付き合いの間柄で、姫君たちは一瞬で意思を通わせあったんだろう、一番言葉の巧みなクリスタ様が真っ先に口を開く。
「まぁ、帝国のティグ様ですわね。ご挨拶が遅れまして申し訳ありません、わたくし、クリスタ・クレスタと申します」
「砂漠の国の王妃殿下でいらっしゃいますよね。一度だけですが、兄と一緒にお会いいたしました」
二人が堅苦しく挨拶を済ませると、いよいよ場が険しい雰囲気になる。姉姫様達は、ティグ様と末姫様のかわした会話のことなんて勿論、知らない。けど、きっと、帝国の皇族が権威を笠に着て末姫様に迫ったら、とか、いろいろ不安に思われたのに違いない。この点、初対面なのにいきなり信頼されてしまった、というか、重責を押し付けられたウィズとは全く正反対の対応だ。まぁ立場が違うんだけどさ、ウィズと彼とじゃ。
「ティグ様、身内の醜聞を晒すようで恥ずかしい限りですが、今ご覧になった通りです。末姫、フィーナ・フィーディスは、今この時をもって、城から『逃亡』します…正門から堂々とですが。」
「お噂はもうお耳に入られていますよね。フィーナは、わたくしたちの妹姫は、本人の意図したところではないとはいえ、陛下の御身に傷をつけるところでした。幸い、陛下の容体は安定していますけど」
さすがメイ様。嘘はついてない。陛下は「石化してしまった」けど、確かに、命の心配がないという点では「容体は安定している」訳だ。
「…お招きしておいてこんなことになってしまうのは本当に遺憾ですが、フィーナの誕生祝いは…」
「ああ、いえ」
姉姫様達の、まるでひな鳥を守る親鳥みたいな気配を感じていたのか、ティグ様がやっと口をさしはさんだのはこの時だった。いったい、いつの世になったってやっぱり口が達者なのは女性なんだなぁと僕は妙に感心したものだ。
「――私がここにうかがったのは、フィーナ姫、あなたの大切なものをうっかり拾ってしまったので、お届けするためなんですよ…ニィ?」
「はい、ティグ様」
とことことティグ様の後ろに控えていたニィが前に歩み出て、そして末姫様は僕の存在に気付いて目をぱちぱちさせてから、大変、と口に手をあてた。皇族が来ようとお構いなしに肩の傷の手当てをしていたティグをちらっと見て、照れ笑い。
「あの子のことすっかり忘れてたわ、あたしが投げちゃったんだった」
「…お前、その扱いはあんまりだぞ」
ウィズのすっかり心から同情しているらしい台詞は…あんまり慰めにならなかった。僕は傷ついて項垂れ、あんまりだ、と末姫様に目で訴える。そうだよ、あんな扱いの後でこの仕打ちって無いと思うよ!
「わざわざわたくしのペットを届けてくださるなんて、ありがとうございます、ティグ様」
態度だけは恭しく、末姫様はニィから僕を受け取って、危うくキスをしようとしたのを思いとどまったみたいに僕に頬ずりした。
「ごめんね、あたし、後先考えてないことばっかりだわ」
本当に申し訳なさそうに言うんだもの。仕方ない、今回は許してやろう、僕は喉をくるくると鳴らして末姫様の頬ずりに答えた。
「全くだ。お前が敗北宣言したときは、さすがの俺も頭が真っ白になったぞ」
ティグ様に聞こえない程度に低い声でウィズが呟く。僕も同意見だ。末姫様はちょっと、時々、いや正直なところ、かなりの頻度で思慮が足りない。無鉄砲というか、…そこが末姫様の魅力でもあるんだけどね、うん。
「さて、フィーナ姫」
ティグ様は、にこりと無害そうな――そう、実際にはあんまり無害ではないかもしれないことを僕は知っている――笑みを浮かべて見せた。末姫様がはっと僕から顔をあげて、まだそこに居た帝国の皇子を見やる。視線がどことなく胡散臭そうだったので僕はこっそり笑ってしまった。「あんたまだいたの?」みたいな視線だ。ティグ様が気付いてないといいけど。
「それに他の姫君達にも。ちょうど良いので知っていただきたい。…僕はここのところ、戦場を回ることが多くって。この王国は景観も素晴らしいし、心を休めるにはとても良い場所だと思いましてね」
少し砕けた口調でティグ様は言って、悪戯っぽく笑った。
「そちらの七の姫様のように大胆なことは出来ませんけど、実は、僕はこちらでしばらく骨を休めたいと思っているのです。それも、極力、お忍びで」
「まぁ」
誰が感心したみたいな声をあげたのかは分らない。お喋り好きのクリスタ様だろうか?
「…ですので、しばらくこのニィ…彼女は僕の侍女で、乳兄弟みたいなものなんですけどね、彼女と一緒に、こっそりと国内を回ってみようと思っています。不愉快に思われないと良いのですが…」
とんでもない、と姉妹の誰かがまた言った。この場では一番権限のあるリトゥリー様が重々しく同意をする。
「ええ。この国の景色があなたを癒すと言うのであれば、我々にとってこれ以上の喜びはありませんとも。…どうぞ、お気に召すままに」
良かった、とティグ様がまたにこりと笑う。それから――
彼はその無害そうな笑みのまま、城へと戻ろうとニィを従えて、そして、末姫様とすれ違いざまに、柔らかなテノールが末姫様の耳を打った。
「…ギレム公爵夫人を訪問するといい、フィーナ姫」
「え?」
眉をしかめ、彼の顔を見返した末姫様と視線を合わせることなく、彼は一方的にただこう告げた。
「君がその呪いを解きたいのなら。ヒントがそこにあるだろう」
末姫様の驚きは、多分、本日四度目に、口をあけて動かなくなった辺りからわかってもらえると思う。硬直した末姫様の隣、ウィズが奇妙な顔をしてニィを見ていた。ニィはにこりと笑って彼に手を振り、ティグ様の後を追って去っていく。
「乳兄弟って――そういうこと、なのか?まさか…」
彼がひどく険しい調子で呟いた言葉の真意を、この時の僕らは当然、まだ知る由もない。
取り残された二人だけが、それぞれに、胸に違和感を感じていた。
こうして、僕達、「逃亡した姫君とそれを助けた魔族、それとペット一匹」という、二人と一匹の旅が、始った。最初の目的地は、ギレム公爵家が収めるティンダーリース領、その城下町になるクラウベリーズの街へ―――
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